肝線維化をはじめとする組織の線維化の多くは不可逆的で、適切な治療法は確立されていない。申請者は培養伊東細胞を遺伝子の面から追究して、肝線維化を主体とする肝疾患に対し、その線維化の抑制による治療的意義ないしは効果を探る目的で研究を行った。 マウス肝由来の伊東細胞にsimian virus 40温度感受性株の遺伝子を導入し、増殖能および伊東細胞固有の分化形質の発現が培養温度の変化により調節可能な伊東細胞株(SV40温度感受性伊東細胞株、A640-IS cell)を世界で初めて樹立した。A640-IS cellは33度の培養温度では大型T抗原が発現し、活発な増殖能を示したが、脂肪およびビタミンA摂取能ならびにデスミンの発現は軽度であった。培養温度39度の条件では、大型T抗原の発現は消失し、活発な増殖は停止したが、脂肪およびビタミンA摂取能ならびにデスミンの発現は増強した。この成果は現在投稿中である。 また、線維芽細胞にIII型コラーゲンに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドをトランスフェクションし、遺伝子レベルでのIII型コラーゲンの産生抑制に成功した(Biochem.Biophys.Res.Commun.1995;215:849-854)。さらに、培養伊東細胞にIV型コラーゲンに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドをトランスフェクションし、遺伝子レベルでのIV型コラーゲンの産生抑制に成功した。 以上の成果に加えて、各タイプのコラーゲンcDNAの5'末端と3'末端を逆向きに培養伊東細胞にトランスフェクションし、コラーゲン産生の抑制作用を認めている。
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