研究概要 |
複雑な存在様式を示す胃粘膜防御機能の調節機構の解明を目指して、胃粘液代謝の指標となり得るムチン生合成活性の変化に焦点を絞りラット胃粘膜器官培養系を用いて各種内在性調節因子(増殖因子、酸分泌刺激物質)の作用を胃の部位別に比較検討し以下のような結果を得た。 1.増殖因子に関しては、粘膜修復因子として胃粘膜上皮への作用が明らかにされつつあるEGF, HGFが胃体部組織において10ng/mlの濃度でムチンコア蛋白合成活性(^<14>C-threonineの取り込み)の40^〜45%増加と糖鎖結合過程(^3H-glucosamineの取り込み)の50^〜80%増加を確認した。一方、bFGFではこのような反応は認められなかった。前庭部においては各種増殖因子の明らかな作用はなかった。 2.これに対して、消化管ホルモンであるガストリンはEGF, HGFと同様胃体部に限局したムチン生合成活性亢進現象を示すが、その作用はムチンコア蛋白合成過程にはなく、糖鎖結合過程及び硫酸化の過程で引き起こされていることを示す結果が得られた。さらに酸分泌刺激物質であるカルバコールもムチン生合成活性亢進作用を有するが、胃体部のみでなく前庭部にも合成亢進が認められる点で他の諸因子と大きく異っていた。 3. Nitric oxide (一酸化窒素)の関与について、まず、arginineの誘導体であるN^G-nitro-L-arginine (L-NNA)存在下で検討したところ、10-^4MのL-NNA単独では胃体部・前庭部共にムチンへの^3H-glucosamineの取り込みは対照と同程度の値を示し有意差を認めなかった。次に、ガストリンの作用を詳細に検討するため、L-NNAを併用添加したところ、上記のガストリンの胃体部における作用が完全に抑制されることが明らかとなった。 4.以上の結果より、増殖因子および酸分泌刺激物質は胃粘膜ムチン生合成の観点からみた場合それぞれ異なった調節因子として作用しており、その制御過程の一部に一酸化窒素(NO)代謝系が関与している可能性が示された。
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