研究概要 |
以前より我々の教室ではIL-7の腸管局所免疫への関与を追求し、IL-7が大腸上皮においても産生され、粘膜内免疫担当細胞の増殖、分化をregulateしていることを初めて証明した(J Clin Invest 95 : 2945-2953, 1995)。更に、潰瘍性大腸炎(UC)において、IL-7を介して免疫調節機構の異常が存在することを示し、本症におけるIL-7の重要な役割を明らかとしてきた。一方、1993年になり、gene targetingにて目的とするgeneのみを発現しなくなった各種ノックアウトマウスにおけるUC類似病変の自然発症が注目されたが(Cell 75 : 253-282, 1993)、このノックアウトマウスにおける腸管局所IL-7の動態を検討することは、未だ明らかでないUCの病因を追求する上で極めて重要であるばかりでなく、難病である本症の抗IL-7抗体等を用いた新しい免疫療法に繋がる研究であると期待される。今回の研究では同誌にて腸炎を起こすと報告されたT cell receptor(TCR)-β ノックアウトマウスを用い、以下の実験結果を得た。1.6-12週のマウスにおいて脱肛及び肛門出血を認め、大腸炎の存在が疑われた。HE染色にて大腸全体、特に直腸に強い炎症を認めた。すなわち、大腸粘膜固有層に単核球の浸潤、杯細胞減少、crypt abscessを認めた。2.RT-PCR法により、マウス大腸粘膜においてIL-7mRNAの発現が確認され、Southern blot法及び制限酵素による切断にて、その特異性が確認された。3.competitive PCR法により、ノックアウトマウスではlittermateマウスに比し大腸組織においてIL-7mRNAの発現が著明に低下していた。4.酵素抗体法による組織学的検索では、IL-7蛋白は大腸上皮において産生が認められたが、ノックアウトマウスではlittemateに比べ減少していた。またIL-7receptorは粘膜内リンパ球において発現が認められ、炎症部で発現細胞の増加が確認された。以上より本マウスにおける大腸炎発症機序に大腸上皮由来IL-7発現異常が関与していることが示唆された。
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