研究概要 |
以前にカテプシンBを検討した手術後5年以上の経過をおえた非小細胞肺癌120例を対象にカテプシンD及びLを免疫組織学的に染色し,その発現の程度とリンパ節転移・予後との関連を検討した.カテプシンLに関しては発現の多い群においてリンパ節転移が多く,予後も有意に悪かった(P<0.05).カテプシンDに関しては一定の傾向がなかった.しかし,カテプシンB及びL,組織型,病期,性別,年齢の因子でのCox hazerd modelによる多変量解析を行ったところ,カテプシンBと病期が独立した予後因子として残り,カテプシンLについてはBの影響が強く独立した予後因子とはならなかった.次に,とくに術後再発が多い肺腺癌を対象にして,カテプシンBを調べた症例について同一標本を使いシステインプロテアーゼインヒビターであるシスタチンA・B・Cの発現を免疫組織学的に検討した.シスタチンA・B・Cはどれも単独では有意な予後因子にはならなかったが,シスタチンBについては,予後が良好であるカテプシンBの発現の弱い群においてシスタチンBの発現が弱い群が術後再発が多く,予後が有意に不良であった(P<0.05). 最近,周囲組織への癌の浸潤に際しては種々のプロテアーゼとそのインヒビターの不均衡が関与しているといわれている.今回の結果より考えられることは,肺癌においてはシステインプロテアーゼとそのインヒビターの中ではカテプシンBの発現の多寡がもっとも強力な予後因子であり,インヒビターはそれ単独では予後を左右しない.しかし,本来予後が良好であるカテプシンBの発現の弱い群において予後不良の症例の多くはそのインヒビターであるシスタチンBの低下と関係している症例が多く,カテプシンBの発現が低い時にそのインヒビターの存在が問題となる可能性が示唆された.
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