ラット肺から分離した上皮細胞および間充織細胞、そしてヒト肝癌由来の細胞株HepG2に対して高濃度酸素暴露を行ったところ抗酸化性酵素であるヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)mRNAの発現量が上昇した。この上昇は酸素濃度依存性であり、また暴露時間が長いほど顕著であった。酸素刺激によるHO-1 mRNA量の上昇に対する抗酸化剤の影響を調べた。その結果、重金属、SH試薬等による強い酸化ストレスが引き起こすHO-1 mRNA発現量の上昇は、N-acetylcysteine(NAC)等の抗酸化剤で抑制された。しかし、高濃度酸素暴露により引き起こされたHO-1 mRNA発現量の上昇はNACでは抑制されないことがわかった。高濃度酸素暴露によるHO-1 mRNA発現量の上昇が、従来から知られている強い酸化ストレスの伝達経路とは異なる独自の経路を介して引き起こされている可能性が示唆された。これまでに、酸素濃度の上昇が独自の経路を介して遺伝子発現の変化を引き起こすという視点に立った研究はほとんど行われておらず酸素刺激特異的な転写調節機構の解明が期待できる。
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