研究概要 |
血管内皮細胞の抗血栓機序を担う物質として、血管内皮細胞ヘパリン様物質(ヘパラン硫酸プロテオグリカン:HS-PG)が存在し、血液中に存在するアンチトロンビンIII(AT-III)との親和性により、抗血栓性が決定される。そして、それは、ヘパラン硫酸プロテオグリカンの構造中の蛋白部分により決定されるのではなく、ヘパラン硫酸(HS)の糖鎖部分にあるとされている。臨床上、内皮細胞機能が減弱し、抗血栓の減少が見られる状態として、先天性の疾患であるホモシステイン血症モデルにおけるHSとAT-IIIとの親和性の低下はすでに報告したが、後天的疾患、すなわち、糖尿病、高血圧などNitric Oxide (NO)の内皮細胞産生低下病態においても、以下に示すようにHSとAT-IIIとの親和性が低下することが確認された。 1.NO合成阻害剤処理により、内皮表面HSとAT-IIIとの親和性が低下することが確認された。 2.NO合成阻害剤によるHSとAT-IIIとの親和性の低下の機序:内皮細胞表面のHS-PGを蛋白部分と糖鎖部分とに分離し、Affinity chromatography, Dot blot assayを用いて、HSの糖鎖部分に変化を起こし、減少することを確認した。 3.さらに、このNO合成阻害剤によるHSとAT-IIIとの親和性の低下の機序は、内皮細胞内の酸化ストレス(主にH_2O_2)によることが、細胞内フリーラジカルスカベンジャーを用いることにより確認された。 以上のことから、先天性疾患や高血圧・糖尿病などの後天性疾患による内皮細胞表面の抗血栓性の低下の原因の一つには、フリーラジカルの酸化ストレス(主にH_2O_2)が重要な役割を果していることが明らかになった。それも、細胞内の酸化ストレスに対するスカベンジャーに影響されることから、粗面小胞体などの蛋白生成レベル以降の糖鎖生成レベルに酸化的ストレスが働き、異常を来す可能性が示唆された。さらに、内皮細胞が産生する構成型NOは、細胞内での酸化的ストレスをスカベンジするという、新たな概念も推察されるに至った。 4.糖鎖合成酵素(スルホトランスフェラーゼ)活性については、いずれの疾患モデルにおいても、細胞表面HSの総硫酸量には変化なく、このため、総トランスフェラーゼ活性には変化なく、さらに特異的な酵素群(3-O-transferaseなど)活性の相対的低下が予想される。 現在および今後、糖鎖解析が行われ、ヘパラン硫酸のどの構造に変化を受けるかについて、NOとの関連も併せて検討されつつある。
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