研究概要 |
ケトン体が虚血心筋保護作用を有するか否かを、ミトコンドリア呼吸調節の側面から検討した。ラット摘出心をワーキングハート法で灌流し、灌流液遮断による10分間の全虚血と30分間の再灌流を行なった。虚血前よりケトン体を投与したK (+)群と、無投与のK (-)群と、虚血を作成しないC群の循環動態指標および細胞内代謝産物を測定し、細胞質およびミトコンドリア酸化還元状態を比較検討した。 1)循環動態指標:虚血再灌流後の左室dP/dt、心拍出量、心仕事量、心筋仕事効率はK (+)群が有意に早い回復過程を示た。 2)細胞内代謝産物濃度:pH, ATP, Pyruvate, Lactate, aKetoglutarate, Ammonia濃度は3群間で有意差を示さなかった。細胞内Phosphocreatine濃度はC群11.4mmol/ml、K (+)群10.7mmol/ml、K (-)群8.5mmol/mlとK (-)群が他の2群と比較して有意な低値を示した。細胞内3-Phosphoglycerate濃度もK (-)群が有意な低値を示した。細胞内DHAPおよびGlutamate濃度はK (-)群が他の2群よりも有意な高値を示した。 3)酸化還元状態:生命活動の基本エネルギー細胞質DGATPHydrolysisエネルギーは約57kJ/molと3群間で有意差を認めなかった。ミトコンドリアredox stateすなわちNAD/NADH比はC群1.4、K (+)群1.2、K (-)群0.2とK (-)群が有意な低値を示し、その電位差はC群およびK (+)群が約-270mV、Kl (-)群-280mVとK (-)群が他の2群と比較して有意な高値を示した。 4)総括:ケトン体は心循環動態における虚血再灌流障害の影響を軽減した。この際ケトン体群では、細胞質ΔG ATPHydrolysisエネルギーの上昇、そのエネルギー供給源であるミトコンドリア酸化エネルギー利用の増大が示された。ケトン体が虚血再灌流時の基質となり、虚血心筋保護作用を有すると考えられた。
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