研究概要 |
近年、一酸化窒素NOの多彩な生体内活性が報告され、循環器疾患の成立・進展に広く関与していることが示唆されている。既に、我々はNO合成を慢性的に阻害すると持続性の高血圧が発症することを報告し、その機序として従来考えられていた内皮由来血管拡張性物質EDRFの阻害のみならず、腎交感神経を介した体液性調節機序の存在を明かにした(Hypertension 1994)。更に、種々の高血圧モデルにおいて臓器障害の成立にNOが重要な役割を果していることを報告してきた(Hypertension 1996, Nephron 1996, Circulation 1995)。これらの結果は、NOがEDRFとして局所の血流を調節し、血小板凝集抑制、細胞増殖及び肥大の抑制を行うのみならず、神経伝達物質としての交感神経系に抑制的に働くことにより、高血圧発症、心・腎病変進展に対し防御的に機能することを示唆する。 この多彩なNOの生体内活性はその僅か数秒間の半減期による迅速な反応系と、細胞間情報伝達物質でありながら気体であることによる特性に基く部分が大きい。近年、NOと同様に気体でありながらその合成酵素が中枢神経系、血管内皮等に幅広く分布し、細胞内情報伝達物質としてcGMPを共有する一酸化炭素(CO)が注目されつつある。COはNO以上に記憶や自立神経系などで神経伝達物質として重要な役割を有することが示唆されており、最近、HO阻害剤を全身的に急性投与すると血圧上昇を来しそれが脊髄切断により降圧すると報告されるにつれ、COがNOと同様神経性機序を介して血圧調節に働く可能性が示唆されている。我々は、現在CO合成阻害物質を中枢内投与することにより、COの循環調節に果たす役割について検討しており、既にmodelとしては完成した結果を得ている。
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