【緒言】最近、虚血性心臓病とアンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子多型との関連が報告され、遺伝要因の一つとして注目されている。本研究では日本人虚血性心臓病患者について本遺伝子を解析し疾患との関連を検討した。【対象・方法】明らかな冠動脈狭窄病変(75%以上)を有する虚血性心臓病119名および健常対照者234名を調査の対象とした。ACE遺伝子のイントロン16に存在する287bpの欠失-挿入のDNA多型deletion type (D)およびinsertion type (I)をPCR法を用いて直接検出した。DNA多型の頻度を患者および健常者間で統計学的に比較検討した。対象となった患者のうち経皮経管冠動脈形成術(PTCA)を施行した患者については、再狭窄との関連を検討した。【結果】対象となった患者119名の冠動脈造影結果、羅患動脈数の内訳は、1枝病変59名、2枝病変37名、3枝病変23名であった。ACE遺伝子多型の検討の結果、D/D群が3枝病変群で有意に増加していた。血中ACE活性値(IU/L)はI/I型10.9±3.3、I/D型12.4±4.0、D/D型17.4±5.6であり、血中ACE活性値とACE遺伝子多型との間に有意な相関を認めた((ANOVA:P<0.0002)。PTCA施行例では、I/I群26例中8例(30.8%)、I/D群19例中5例(26.3%)、D/D群7例中5例(71.4%)に再狭窄を認めた。また、健常集団でのD/D型の頻度は、これまでの欧米人を対象にした報告では18.4%〜29.1%であるのに対し、本研究では234名中12.4%であり(P<0.005〜5×10^<-5>)日本人では明らかにD/D型の頻度が低かった。【考察】虚血性心臓病患者を対象としたACE遺伝子多型の解析の結果、3枝病変を有する重症群においてはD/D型が多いことが明らかになった。このD/D型では、PTCA後の再狭窄を高頻度に認めることから、ACE遺伝子多型およびACE活性が冠動脈硬化に促進的に働いている可能性が示唆された。
|