研究概要 |
収縮末期心室エラスタンスが心室の収縮性を表すことは知られているが、測定が困難なことより臨床的には十分用いられていない。一方、局所心筋の機械的特性を直接的に測定する方法はいまのところ知られていない。今回、私たちは微小振動を与えることにより局所心筋のエラスタンスを求め、これが心室収縮性の指標である心室収縮末期エラスタンスとどう相関するか検討した。実験は10頭の雑種成犬(体重:9-21kg)からペントバルビタール麻酔下に得られた交叉血液潅流摘出心を用い等容収縮下に実験した。左室前壁に小振幅(0.25mm)の正弦波状振動(50-100Hz)を与え、振動子の変位と振動子・心筋間で生じる力を同時測定した。変位・力関係の同相部分はe-mw^2(eは心筋エラスタンス、mは心筋質量、wは振動角速度)、直交部分はrw(rは心筋粘性)で表されることから、変位・力関係の同相部分を2つの周波数で求め連立方程式を解くことにより心筋エラスタンスeを算出した。心周期内での心筋エラスタンスの変化と心臓の収縮性を変化させたときの心筋エラスタンスの変化を求めた。心筋エラスタンスは拡張末期には1.05±2.09×10^5dyne/cmであったが心室エラスタンスカーブと同様の変化をたどり、収縮末期には7.57±2.09×10^5dyne/cmに増加した。種々の収縮性で調べた収縮末期心筋エラスタンスは収縮末期の心室エラスタンスとよく直線相関した(r=0.879,n=18,p<0.0001)。また心筋エラスタンスは比較的心室前負荷の影響を受けなかった。これらのことから微小振動を加えることにより心筋局所のエラスタンスを求めることができ、この心筋エラスタンスは心室形状の大きな変化や局所による収縮性の大きな差がなければ心室エラスタンスとよく相関することが示された。
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