心肥大、心不全の発症機序の解明を目的として、遺伝性心筋症ハムスターの心機能不全の発症機構の研究を進めている。心筋症ハムスター心筋では、ジストロフィン(Dys)とその結合タンパク質(DAP)複合体の異常を見いだした。心筋症ハムスター心筋では、Dys複合体が正常に形成されず、また、DAPの一つα-サルコグリカン(SG)が細胞表面膜から欠損している。さらに、他のDAPのβ-、γ-SGが減少していることや、SG遺伝子異常によるヒト・筋ジストロフィーが報告されたことから、これら3種のSGがDys複合体の形成に重要な役割を果たしていることが考えられた。そこで、心筋症ハムスターにSG異常が存在するかどうか、遺伝子レベルの検討を行った。また、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ODN)を培養筋細胞に導入して、β-SGの機能を検討した。 心筋症ハムスター心筋では、α-SGのmRNAは、ほぼ正常に転写され、決定したcDNA配列にも変異が存在しなかった。さらに、β-、γ-SGのcDNA配列には、少なくとも翻訳領域には変異は存在しなかった。α-SGに対するアンチセンスODNを導入した骨格筋株細胞では、このタンパク質の発現は検出できなかったが、抗Dys抗体による免疫沈降法によって、α-SG以外のDys複合体のタンパク質は回収された。このことから、α-SGが欠損した培養筋細胞でもDys複合体が形成され、3種のSGcDNA配列に変異がなかったことを考え合わせると、心筋症ハムスター心筋でのDys複合体形成異常は、SG以外のタンパク質の変異に起因するものであることが示唆された。また、アンチセンスODNを用いてα-SGの欠損した細胞では細胞接着性の低下、細胞融合の阻害が観察されたことから、β-SGが細胞接着や細胞融合に何らかの役割を有していることが明らかになった。
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