研究概要 |
ミトコンドリア脂肪酸代謝異常症の中でも、ミトコンドリア長鎖脂肪酸代謝異常症は、新生児期、乳児早期から突然死、脳症、心筋障害、ミオパチーなどの重篤な症状を呈することが報告されている。(文献1)われわれのグループは、近年新たに同定されたミトコンドリア長鎖脂肪酸代謝異常症の一つである極長鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症のタンパク化学的解析(文献2)、原因遺伝子のラットおよびヒトcDNAのクローニング(文献3,4)、遺伝子変異の解析と異常タンパクの発現(文献4)を報告しているが、今回の研究によってミトコンドリア長鎖2-エノイル-CoAヒドラターゼ/3-ハイドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ/3-ケトアシル-CoAチオラーゼ:3頭酵素(以下3頭酵素)欠損症においても病因となる遺伝子の変異が初めて同定された。 3頭酵素欠損症には、サブユニットタンパクが存在し、3-ハイドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ活性のみが著減するグループ1と、サブユニットタンパクがほぼ消失し、3活性とも著減するグループ2が存在する。 まずグループ1の患者26人については、3頭酵素欠損症患者の異常サブユニットのタンパク化学的解析からαサブユニットの異常が疑われたので、αサブユニットの遺伝子解析を行った。その結果、グループ1の患者26人全員についてαサブユニットcoding regionの1528G to Cの1塩基置換が同定され、この変異は550番アミノ酸のGluからGlnのアミノ酸置換をもたらしていた。550番アミノ酸のGluは、大腸菌、緑膿菌、ラットペルオキシソームの2-エノイル-CoAヒドラターゼ/3-ハイドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ複合体、ラットおよびヒト3頭酵素αサブユニットのすべてにおいて保存されており、その周辺部分のアミノ酸一次配列も保存度が高いことから、この変異はグループ1の病因となる変異と推定された。βサブユニットの塩基配列には病因と思われる変異は認められなかった。(文献5) グループ2の患者では、患者A:βサブユニットの788A to Gのホモ接合性1塩基置換(263Asp to Gly)、患者B:βサブユニットの182G to A(61Arg to His)と740G to A(247Arg to His)のヘテロ接合性の塩基置換、患者C:αサブユニットの110-180塩基の71塩基の欠失(Frame shiftを生じる)、が同定された。正常者のαサブユニットまたはβサブユニットをコードするcDNAを患者細胞で発現させるとその酵素活性は回復した(表1)。正常者のαサブユニットまたはβサブユットをコードするcDNAをそれぞれ単独で発現させてもその不安定性は改善しなかった。正常者のαサブユニットと患者Aのβサブユニットを同時に発現させると正常者のαサブユニットの安定性も失われた。(S.Ushikubo,T.Kamijo et al.manuscript in preparation)
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