研究概要 |
肥大型心筋症(HCM)における心筋ミオシン重鎖(MHC)のdivergent regionにおける遺伝子配列の異常を検索するために,家族性HCM1家系5例を対象としてミオシン重鎖の頭部よりロッド結合部(MHC蛋白の収縮機構上極めて重要なATP,アクチン,ミオシン重鎖の結合部を含む)にいたる第3〜24エクソンを選び,その前後でプライマーを作成してRT-PCR法を行い健常者との塩基配列の違いを検討した結果,家族性HCMの女性3代を含む1家系5例のうちHCM発症例4例全員にエクソン20の点変異を認めた。その結果グリシンよりトリプトファン(Gly741→Trp)へのアミノ酸の置換が確認された。遺伝形式がミトコンドリアDNAが母系遺伝することから,この家系に焦点を絞り,この家系のミトコンドリアDNAをPCR法で増幅し健常者との塩基配列の違いを検討した。この結果(1996年3月)現在,患者2名に同一場所で塩基番号8860にAからGへの点突然変異(Thy8860→Ala)のアミノ酸の置換が確認された。また,塩基番号3423でGからTへのアミノ酸の置換がない点突然変異(Val3423→Val)が確認された。またこの他,C→T(Thy8964→Thy),A→G(Thy8701→Ala),C→A(Ala8834→Asp)の点突然変異(すべて患者)が認められた。 今後の展開としては,現在この家系のミトコンドリアDNAの全塩基配列の決定が終了しておらず,さらに解明が進むにつれ,この他には点突然変異が見つかる可能性も示唆される。 また,今回は心筋ミオシン重鎖の遺伝子異常とミトコンドリアDNAの異常を検索したが,最近はこの他に心筋トロポニンT,αトロポミオシンなどのサルコメア構成蛋白の遺伝子異常も心筋症の原因遺伝子であることが指摘されており,今後はそれらの検索も合わせて必要となってくると思われる。
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