今回申請した研究の目的は皮膚の上皮内癌・癌前駆症であるBowen病(B病)、日光角化症(AK)の染色体数的異常と細胞増殖能、異常p53蛋白発現について検討することである。まず初めに、AK細胞の染色体数的異常の有無を知るためにp53などの遺伝子が存在する17番染色体に特異的なDNAプローブを用いたIn situ hybridization(ISH)法によって、15例のAK、5例の有棘細胞癌(SCC)の染色体数的異常について検討を行った。その結果、正常表皮細胞、リンパ球ではほとんどの核が1〜2個のシグナルを示したが、AK、SCCではすべての症例で核に3個以上のシグナルを示す数的異常を認め、染色体の数的異常はAKの段階ですでに存在していることが認められた(以上の結果は日本研究皮膚科学会第20回年次学術大会・総会にて発表した)。さらに、進行癌化に伴う染色体数の変化、また、病巣内での染色体数的異常細胞の分布と増殖細胞の分布、異常p53蛋白陽性細胞の分布との関連について検討するために、AK26例、B病9例、SCC12例に17番染色体特異的DNAプローブを用いたISH法、抗PCNA抗体、抗p53抗体を用いた免疫染色を行った。結果は1核あたり3個以上のシグナルを有する数的異常細胞の割合はAK16.1%、B病11.1%、SCC22.6%であり、腫瘍のプログレッションに伴い、染色体の数的異常がより増強していた。細胞増殖能を反映するPCNA陽性率はAK50.1%、B病60.2%、SCC49.4%で、AK、B病はSCCと同程度の高い増殖能をもっていた。また、異常p53蛋白はAK65.4%、B病66.7%、SCC33.3%にみられ、AK、B病ではp53遺伝子の変異が高頻度に存在することが示唆された(以上の結果は第36回日本組織細胞化学総会にて発表した)。しかし、染色体数的異常細胞とPCNA陽性細胞、p53蛋白陽性細胞の分布については、まだ十分に検討することができなかった。今後、個々の症例についてさらに細かく検討する必要があると思われた。
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