研究概要 |
放射線誘発アポトーシスと治療効果との関連につき検討するため、マウス正常組織、マウス腫瘍系にて放射線により誘導されたアポトーシスと関連遺伝子の発現を免疫組織化学的手法を用いて経時的に解析した。また実際に放射線治療をうけた癌患者より採取した検体を、同様の手法にて検討した。 まず、マウス(C3H/He)の正常組織における検討では、採取した各臓器(脳、肺、肝、脾、小腸)のうち肝のみにおいて、照射後30分から6時間にかけてのアポトーシス細胞の増加と、照射線量の増加に伴うアポトーシス細胞比の増加がみられた。またアポトーシスの誘導がなされたことを示唆するDNAの断片化に関しては、照射直後に鋭いピークを示し、その後数時間で急速に減少し、24時間以降ほとんど消失するという新しい知見が得られた。次に、マウス腫瘍系(SCCVII、C3MC2)を用いた検討では、照射された腫瘍組織内にかなり多くのネクローシス細胞が混在していたために、アポトーシスとその関連遺伝子(jun,fos,myc,etc.)発現の経時的変化に明らかな傾向を認め得なかった。最後に、ヒト腫瘍における臨床的検討は、主に頭頚部癌を中心とした約30例の検体から4Gy,10Gy,20Gyの各照射時に癌組織の一部を採取し行ったが、10Gy照射時の癌組織中にアポトーシス細胞が多数認められる症例において放射線感受性が高い傾向がみられた。ただし今回の検討からは、放射線誘発アポトーシスが依存性を有すると言われている癌抑制遺伝子P53とアポトーシス細胞の発現との間には明らかな関係は認められなかった。 以上今回得られた知見は、到底アポトーシスと放射線治療効果との関係を総合的に評価するに十分とは言えないが、ネクローシス細胞の排除等の改善すべき点に留意して更に正確かつ詳細な検討を行いたいと考えている。
|