研究概要 |
1.細菌:放射線高抵抗性細菌(Deinococcus radiodurans MRI)の野性株(アデニン栄養要求突然変異株)を用い、50〜55℃の温度処理での細菌内DNAに損傷を検討した。 2.加温処理:[2-3H]-adenine(15.5Ci/mmole;New England Nuclear)を標識後50〜55℃で加温し、加温時間は2時間まで行った。 3.放射線照射:京都大学原子炉実験所において、低LET放射線として10kGyまでのγ線照射(線源:3.7×1014Bq.線量率:3.3kGy/hr)を行った。また高LET放射線としては、同実験所の原子炉(KUR)の重水(D_2O)タンク設備がある熱中性子照射筒実験室を用い、核反応断面積に大きい10B(H310BO3:90.2%,0.3M)を添加した細胞浮遊液に、熱中性子の照射(3×109n/cm2sec)を行い、10B(n,α)7Li反応で生じるBNCビーム(α粒子)を用いた。 4.DNA抽出:細胞内のDNA抽出はフェノール抽出(Marmur method)で行なった。DNA溶解にはSSC(0.15M Nacl,0.015M sodium citrare,pH7.0)bufferを使用し、酸性加温に際してはこのbufferのpHを、3.0まで下げた。なお、抽出DNAの分子量は約10^7daltonsで、DNAの測定は吸光度254nmを用いた。 5.DNA分子挙動の解析:細胞内DNA抽出後、スウィング型ロータを搭載した超遠心分離機を用いて5〜20%のアルカリ性蔗糖密度勾配超遠心法(35,000rpm for 4 hr at 5℃)で、DNAの鎖切断の状態を把握した。 結果:220Gyのγ線照射で抽出DNAが低分子化した。この細菌の放射線高抵抗性はDNAが低分子化するための、この細菌の放射線高抵抗性はDNAの修復能の高さに起因していると推定した。また、中性緩衝液中、55℃、または、90℃の加温処理で抽出DNAの低分子化を認めなかったが、酸性環境下で同様の処理を行うと、顕著なDNAの低分子化を認めた。
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