本研究では、痴呆老年者における活動・休止(R・A)および深部体温(BT)リズム障害の特性を同定するとともに、これらの痴呆老年者に対してヒト概日リズムの強力な同調因子である高照度光のパルス照射を行うことにより、概日リズム障害を正常化する試みを行った。 対象:対象は多発梗塞型痴呆患者7名(MID;M/F=2/5;平均年齢±S.E.M.=80.29±1.27才)、アルツハイマー型老年痴呆患者6名(SDAT;M/F=2/4;80.17±1.94才)および非痴呆対照老年者9名(ND;M/F=4/5;70.4±3.5才)である。研究期間は1ク-ル4週間×2の合計8週間であり、全期間を通じて、対象者の活動・休止および深部体温リズムをアクチグラフおよび携帯型深部体温ロガーを用いて連続測定した。各ク-ルの第2および3週目の午前9〜11時までの2時間にわたり8000ルクスの高照度光もしくは300ルクスの低照度光照射をcrossover designにて施行した。 結果および考察:非痴呆群に比較し、痴呆2群では有意にR・Aリズム障害が傷害されていた。MID群ではBTリズムにも明らかな障害が認められたが、SDAT群ではBTリズムの概日性がよく保たれる傾向にあった。R・Aリズム障害に対する高照度光照射の治療効果は、SDAT群に比較してMID群で有意に高いことが示された。MID群ではR・Aリズム障害の改善と同時にBTリズム障害の改善も認められた。すなわち、光同調因子の強化はMID群での既日リズム発現・調節機構の正常化に有効であることが明らかになった。一方、SDAT群でのR・Aリズム障害は脳高次機能の器質障害に直接的な関連を持つ可能性が示唆されており、このことが光照射療法の有効性低下の一因であるものと推測される。
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