研究概要 |
アミロイドP成分(AP)が老人班と神経原線維変化に存在する他の構成部分と異なり、産生部位が肝臓に限定されていることに着目し,アルツハイマー型痴呆(ATD)患者におけるAPの動態が血中量に反映されていると考え、ATD患者と対照群における血清中のアミロイドPを酵素免疫測定法で計測し比較検討した。同時に,栄養状態の指標として総蛋白,肝における蛋白合成の指標としてアルブミン,APと類似した構造を持つCRPの定量(総蛋白はBiure法,アルブミンとCRPはnephelometry)を行い、APとの関係を調べた。対象として,臨床的にATDと診断された患者20例と,age-matchさせた対象群19例の末梢動脈血を用いた。 AP値は対照群で平均35.6±8.7μg/ml,ATD群では平均21.8±7.0μg/mlとなり,ATD群では対照群に比べ有意に低値を示した。対照群のAPの値はこれまでに報告されているものとほぼ同等の値であった。若年者を追加した対照26例で年齢とAP値の関係を調べたが,相関を認めなかった。総蛋白とアルブミンはATD群で低い傾向がみられるものの統計学的に有意ではなかった。CRPについては個体間のばらつきが大きいため統計処理は行わなかった。AP値を男女間の比較では,いずれのグループでも有意ではないが女性が若干低い傾向が見られた。ATD群,対照群の各群内における比較でも,APと総蛋白,アルブミン値は,ともに相関を認めなかった。 結果から,ATD患者における血清のAPは,総蛋白,アルブミン,CRPなどの指標とは異なり,対照に比べ有意に減少していることが明らかになった。ATD患者において,APの肝における生産亢進はなく合成能はむしろ低下していると推測され,老人班や神経原線維変化におけるAPの存在には、血管の透過性、結合の特異性などの要因が関与していると考えられる。また、APの合成低下にはATD患者におけるサイトカインの減少などの要因の影響も考えられる。今後,APの低下と生体の防御機能の障害およびATDの病変の進行との関連について検討を進めることが必要である。
|