研究概要 |
(1)動物実験:メルカゾール投与により作成した甲状腺機能低下ラットおよび正常ラットの下垂体前葉組織切片を作成し、レチノイドXレセプター(RXR)の各サブタイプ(α,β,γ)に特異的な抗体を用いて免疫染色を行なった。RXRαおよびβは下垂体前葉のほぼ全細胞で陽性であり、正常および甲状腺機能低下ラット間での差異は認められなかった。RXRγは正常ラット下垂体前葉において、ごくわずかの細胞でのみ陽性であった。しかしながら、甲状腺機能低下ラットの下垂体前葉においては、RXRγ陽性細胞数の著明な増加が認められた。さらに細胞当たりの陽性度も著明に増加したことから、RXRγの発現が甲状腺ホルモンにより負の調節を受けている可能性が示唆された。つぎに、いずれの下垂体前葉細胞においてRXRγが発現しているかを明らかにする目的で、抗XARγ抗体と各下垂体前葉ホルモンに対する抗体を用いて二重染色を行なった。その結果、RXRγ陽性細胞の殆どがTSH産生細胞であり、他の前葉ホルモン産生細胞では殆どRXRγが発現していないにことが明らかとなった。以上より、RXRγがTSH産生細胞における遺伝子調節や細胞分化に関与している可能性が推定された。 (2)培養細胞を用いての実験:下垂体前葉系培養細胞より抽出した核タンパクをゲルシフトアッセイにより解析したところ、成長ホルモン産生細胞であるGH3細胞およびゴナドロピン産生細胞であるαT3細胞の両者において、RXRβタンパクの豊富な発現が認められた。つぎに、RXRβの甲状腺ホルモンによる発現調節を明らかにする目的でウエスタンブロットを施行した。その結果、GH3細胞においては甲状腺ホルモン添加によりRXRβタンパクの発現低下が認められた一方で、αT3細胞においては同様の調節は認められなかった。この差は各細胞における甲状腺ホルモンレセプターの含有量の違いによるものと考えられた。現在、マウスRXRβ遺伝子をGH3細胞にトランスフェクションし、ルシフェラーゼアッセイによって解析を行なう準備を進めている。
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