[目的]:急性心筋梗塞に対して血栓溶解療法を施行するとトロンビン形成が生じ、それが冠動脈再閉塞につながる可能性が示唆されているが、その凝固活性化の機序については不明である。今回、この点を明らかにするために血漿に血栓溶解剤を添加して凝固活性化について検討を試みた。[方法]:正常クエン酸血漿および各凝固因子欠乏血漿に種々の濃度のt-PA、プラスミンを添加して、F1+2、TAT、FPA、D-dimerを測定し、その生成量を比較した。また、精製したプロトロンビンにt-PA、プラスミンを加え、F1+2の生成の有無についても検討を加えた。以上の試験に抗凝固剤を添加した際の影響も検討した。[成績]:正常クエン酸血漿にt-PA、プラスミンを添加すると濃度依存的にF1+2、TAT、FPAは上昇した。これはヘパリンを100単位/mlの濃度であらかじめ添加しておくと抑制された。1000単位/ml(治療血中濃度)のt-PAを各凝固因子欠乏血漿に加えた結果、第V、X因子欠乏血漿ではF1+2はほとんど生成されず、第VII、XII因子欠乏血漿ではコントロール血漿に比較してF1+2の生成量は明らかに低下した。なお、大量のプラスミンを生理的濃度の精製プロトロンビンに添加した際、F1+2の生成が認められたが、これは同量のプラスミンを正常血漿に添加した際に生成される量の約1/10と少量であった。[結語]:t-PAをクエン酸血漿に添加すると凝固活性化が生ずるがこれには外因系凝固機序の活性化および第XII因子の関与が示唆され、また、プラスミンによる直接のプロトロンビン活性化の可能性もあり、その機序は複雑であると思われた。
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