(緒言)我々は白血病細胞と骨髄間質細胞(ストローマ)との相互作用を検討する中で、以下のことを観察した.1.健常人由来のストローマ細胞との共培養により、白血病細胞や造血幹細胞は無血清下でも生存が可能である.2.血液疾患患者由来のストローマ細胞では疾患により、白血病細胞や造血幹細胞の造血支持能が異なる.特に発作性夜間血色素尿症(PNH)のストローマ細胞の造血支持能は健常人由来ストローマに比して低下している傾向がみられた. そこで本来の研究課題と異なるが、PNHのストローマ細胞の造血支持能についてまず検討することにした. (目的)PNHは造血幹細胞の異常に由来する後天性クローン性疾患である。このクローンに由来する血球はGPIアンカー型蛋白を欠くため補体溶血を起こしやすい。しかしPNHでしばしば認められる造血障害がこのGPIアンカー型蛋白の欠損で説明できるかどうかは不明である。一方正常な造血は造血幹細胞と骨髄ストローマ細胞との密な相互作用により維持されている。そこで今回我々はPNHの骨髄ストローマ細胞の造血支持能を検討した。 (方法)ストローマ細胞は健常人及びPNH患者骨髄からDexter法にて作成した。標準化するため造血細胞としてK562細胞株を用いた。両者の共培養にはRPMI単独あるいはAIM-V培地を用いた。細胞の生存・増殖はトリパンブルーによる生細胞数及びMTTアッセイで評価した。培養上清中のサイトカインはELISAを用いて測定した。 (結果及び考察)K562細胞はストローマとの共培養では無血清培地中でも生存・増殖した。しかし健常ストローマに比し、PNHストローマのK562細胞増殖支持能は低下していた。またストローマ細胞の培養上清を用いてK562細胞の増殖をMTT法でみたところ、いずれの培養上清も同程度に増殖を促進したが、ストローマとK562細胞を共培養した上清を用いて同様の検討をするとPNHストローマとK562細胞の共培養上清において著明にK562細胞の増殖促進能の低下がみられた。PNHストローマではK562細胞との接着により抑制性サイトカインが健常ストローマ以上に産生されている可能性を考え、TGF-βを測定したが両者に差はなかった。PNHにおいてはストローマからの他の抑制性サイトカインの産生あるいは直接の接着を介して造血を抑制している可能性が示唆された。
|