高血圧モデル動物においては糸球体の濾過調節機構の異常など腎糸球体の血行動態の異常が報告されており、腎血行動態の異常が高血圧発症のメカニズムの一つとして重要と考えられている。糸球体の血行動態の調節にきわめて重要と考えられているのが糸球体の中心に存在しているメサンギウム細胞である。我々はメサンギウム細胞の細胞機能の調節およびそれが高血圧モデル動物由来のメサンギウム細胞において正常メサンギウム細胞と異なっているか否かについて検討を続けている。その結果自然発症高血圧ラット、Dahl食塩感受性高血圧ラットなどの高血圧モデルラットのメサンギウム細胞においては細胞外のCl濃度を低下させた時に正常で見られるプロスタグランディンの産生の増加や血管作動性物質によるCaシグナルの抑制は見られないことかが明らかになった。一方インスリン様成長因子(IGF)-I受容体を活性化すると正常メサンギウム細胞の血管作動性物質によるCaシグナルが抑制されることを我々は既に明らかにしているが(Kidney Int. 1994)、このIGF-I受容体活性化によるCaシグナル抑制効果は自然発症高血圧ラットでは欠落しているもののDahl食塩感受性高血圧ラットでは認められない。これらの観察はDahl食塩感受性高血圧ラットでは自然発症高血圧ラットと異なり、メサンギウム細胞機能の細胞外Cl濃度による調節が特異的に障害されていることを示すものである。Dahlラットにおいては食塩依存性に高血圧が発症すること、Clがシグナルとして重要と考えられる尿細管糸球体フィードバックなどの糸球体血行動態の調節が正常と異なっていることを考え併せると、メサンギウム細胞のClによる調節の異常はDahl食塩感受性高血圧ラットにおける高血圧の発症に関与している可能性があると我々は考えている。
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