研究概要 |
慢性腎不全に対してCAPD療法を長期間継続した場合、腹膜の機能的器質的劣化および硬化性腹膜炎が認められる症例がある。これらの発症進展機序とその対策の確立を目的として以下の実験を行なった。 1〕腹膜透析液による腹膜中皮細胞への細胞傷害性についての検討 家兎腹膜より中皮細胞を分離培養後、浸透圧やpHの異なる透析液を加え、培養細胞より放出されたLactate dehydrogenase(LDH)を測定した。透析液の細胞傷害性は、高浸透圧および低pH透析液であるほど強かった。 2〕各種薬剤の腹膜中皮細胞に対する増殖および保護作用についての検討 培養腹膜中皮細胞を用いて、細胞傷害に対する保護作用を有するとされる薬剤を培養液中に添加後、透析液による細胞傷害刺激を加え、各薬剤の細胞保護効果を検討した。verapamilとcaptrilでは細胞保護効果は全く認められず、phosphatidylcholineとdipalmitoyl-phosphatidylcholineでも僅かにLDHの放出は低値であったが、有意な細胞保護効果は認められなかった。 3〕腹膜における中皮細胞の役割についての検討 腹膜中皮細胞は表面を覆っており、透析液よりの糖吸収の抑制とその他の腹膜構成細胞への直接的影響を阻止し、腹膜を保護するとともに腹腔内臓器間の癒着を防止していると考えられる。そこで、SDラットを用いて5/6腎摘モデルを作成後、腹膜表面の中皮細胞を鈍的に広範囲に剥離し、中皮細胞の保護および再生を目的として以下の実験を施行中である。高浸透圧透析液による腹膜透析を7日間施行しながら、phosphatidylcholine,dipalmitoyl-phosphatidylcholineおよび抗炎症作用を有する副腎皮質ステロイド剤を連日腹腔内投与し、腹腔内臓器の癒着の程度および腹膜の組織学的変化について検討中である。
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