研究概要 |
本研究の目的は、高脂血症による腎糸球体硬化病変過程のなかで最も重要な段階と考えられるマクロファージ(Mo)の腎糸球体内への浸潤機序を分子生物学的に糸球体内接着分子発現の点から明らかにすることである。主研究者はExHCラット(食餌性高コレステロール血症易発性ラット)を用いた実験で、高脂血症は接着分子発現亢進を介してMoの腎糸球体内への浸潤を誘導することを明らかにしてきたが、本研究では、さらに培養糸球体内皮細胞およびメサンギウム細胞を用いたin vitroの系においても、腎疾患とくにネフローゼ症候群において異常高値を認める脂質成分(とくに酸化LDL)による腎糸球体内接着分子発現亢進(ICAM-1,VCAM-1 mRNA量および蛋白量)を確認した。またmRNA増強は遺伝子転写活性の増加を間接的に示唆するが、Run-on assayにて転写活性化を直接証明した。また高脂血症下においては初期に浸潤してくるMo由来のサイトカインにより接着分子の発現がさらに増強されている可能性があるが、本研究では、IL-1やTNFが酸化LDLによる接着分子遺伝子転写活性化に対して相乗作用があることを確認した。次に、酸化LDLは細胞内の転写調節因子NF-kBを活性化することが知られているため、高脂血症による接着分子発現調節機構について、とくに遺伝子転写調節の点から検討中である。この目的のために、5'上流転写調節領域(NF-kB結合コンセンサス配列を含む)のヒトICAM-1およびVCAM-1DNA断片をルシフェラーゼレポーター遺伝子に組み込み培養糸球体内皮細胞およびメサンギウム細胞に導入(形質転換)し、酸化LDLによるNF-kBを介した転写調節を検討している段階である。ここまでのプロジェクトにより従来知られていなかった酸化LDLによるNF-kBを介しての接着分子発現機序が明らかにされる。
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