上皮細胞の過形成、嚢胞液の蓄積および基底膜の構成異常がみられる多発性嚢胞腎症(PKD)の治療方法は、まだ確立されていない。PKDが急速に進行するC57BL/6J-cpk(cpk)マウスでは、抗癌剤taxolの治療効果が認められた。そこで、本研究では、PKDが緩やかに進行するDBA/2FG-pcy(pcy)マウスにおけるtaxolの影響を2つの投与方法で調べた。1)21日齢pcyマウス19匹に150μg/15μl週のtaxolを9回腹腔内投与。2)12日齢pcyマウス45匹に100μg/10μl週のtaxolを11回腹腔内投与。対照として溶媒であるDMSOを同一方法にて同量投与した(15匹と28匹)。投与方法1)では、taxol投与群と非投与群の死亡率、体重、腎体重比および血清尿素窒素(SUN)値に差は認められなかった。投与方法2)では、taxol投与群の死亡率(24.4%)は、非投与群(3.6%)に比して高値を示し、体重(21.3g)は、低下した非投与群(22.9g)。有意差はみられなかったが、taxol投与群の平均値は腎体重比(4.3%、非投与群:5.2%)およびSUN値(30.9mg/ml、非投与群:33.9mg/ml)で低下した。腎臓の組織所見では、一部を除いて両群に顕著な差はみられなかった。これらのことは、cpkマウスとは異なり、pcyマウスでは、本投与方法によってtaxolの劇的な治療効果はみられないことを示す。これは、taxolでは治療効果と副作用が現れる濃度の閾値が接近していること、あるいは両マウスモデルではPKD進行の過程において上皮細胞過形成の関わる度合が異なることに寄るのかもしれない。今後、taxolの副作用を弱める方向で実験をする必要を認める。 (尚、今回の結果は、第29回日本腎臓学会総会にて報告し、雑誌投稿も準備中である。)
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