ラットの腎集合管上皮における間在細胞のプロトンポンプ(液胞型プロトンATPase)が、急激なpHの変化のもと、どのようにその細胞膜上の発現変動を示すのか、また、局在に変化をみせるのかどうかを免疫組織学的に検討した。健常なS.D.ラットを、コントロール群、重曹投与によるアルカロ-シス群、塩化アンモニウム投与によるアシドーシス群の3群に分け、それぞれに対してこれらを経静脈的に投与し、3時間後に、血液のpH、血液中重炭酸イオン、尿pHをモニタリングした。同時にこれらのラットの腎を潅流固定の後摘出し、脱水し、包埋の後、SAB-PO法にて、集合管間在細胞におけるプロトンポンプの局在について、間在細胞の染色パターンにより6種類に分け、それぞれの群についてカウントし、差異を検討した。その結果、酸投与群と、他群との間に、尿pHおよび血液中重炭酸イオン濃度について、有意な差を認め、体液環境の変化、すなわち急性アシドーシス状態と、それに伴う尿酸性化の亢進が酸投与群に形成されたが、間在細胞におけるプロトンポンプの局在については、光顕レベルで染色パターンをみる限り、3群間で違いは認められなかった。これらの結果から、急激な体液環境の酸性化の初期過程では、間在細胞におけるプロトンポンプの局在の変化、すなわち管腔側へのプロトンポンプの細胞内移動により尿の酸性化が亢進するのではなく、まず他の機構によって生体は対応することが示唆された。また、より慢性的な体液環境の変化、または時間の経過により、プロトンポンプの局在に変動がみられることが考えられうる結果であった。
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