術後肝不全予防および治療への適応を目的として、酸化還元酵素であるチオレドキシンに着目した。本年度の研究結果に関しては以下の通りである。 (1)すでに開発済みの人血清チオレドキシン定量用のELISAシステムを使用し、正常人(65例)、肝がん非合併慢性肝疾患患者(38例)、肝がん患者(38例)、の血清を測定した。正常人(88.9±35.8ng/ml)やがん非合併患者(90.6±45.6ng/ml)に比べ、肝がん患者(159.0±103.3ng/ml)では有意に高値を示した。また、抗チオレドキシン抗体を用いた免疫組織染色にて、正常の肝より肝がん部においてチオレドキシンの発現が増強していることを確認した。このことより肝がん患者においてはがん部でのチオレドキシンの産生が増加した結果、血清中のチオレドキシンが上昇している可能性が示唆された。このことは第54回日本癌学会において発表した。また現在、投稿中である。 (2)肝がん患者のうち13例の手術症例については、術前、術後1週間、術後6ヶ月における血清チオレドキシンを測定した。13例中、10例においては術前に比べ、術後1週間で血清チオレドキシンの上昇を認めた。しかし、術前に我々が正常上限と考えられている150ng/ml以上の値を示した5例中、追視し得た4例すべてが術後6ヶ月には、正常範囲まで低下した。以上のことより術後早期においては肝切除後の肝再生に伴い、血清チオレドキシンが上昇している可能性が示唆され、さらにその後、低下していることより、(1)の現象をより指示している結果となり、血清チオレドキシンの腫瘍マーカーとしての可能性をも示唆した。ただし、このことはさらに追加および動物実験において確認する必要があると思われる。 (3)当初、動物実験においてはラットを使用する予定であったが、マウスチオレドキシンの塩基配列がわかっていることより、そのN末端およびC末端のペプチドをうさぎに免疫し、マウスチオレドキシンに対するポリクローナル抗体を作製した。現在、その活性を確認するため、リコンビナントマウスチオレドキシンの作製を予定している。
|