研究概要 |
:癌性腹水は末期癌患者の予後やQuality of lifeを著しく低下させている。近年、癌細胞の薬剤感受性試験が行われるようになり、治療効果を向上させる可能性が期待されている。しかしながら、殺腫瘍効果の高い抗癌剤の腹腔内投与は癌細胞のみならず正常腹膜中皮細胞をも損傷する可能性がある。今年度は、各種抗癌剤が腹膜に及ぼす影響を調べ、予防的投与の可能性を検討した。1)ヒト大網より分離された正常腹膜中皮細胞抗癌剤感受性をATCCS検査にて測定したこの中皮細胞の感受性検査の結果を癌細胞の感受性と比較した。2)ヒト大網より分離された腹膜中皮細胞をプラスチックプレートで培養しコンフルエントなモノレイヤーを形成したところで、各種抗癌剤を加えて形態的な変化を観察した。さらに低濃度の各種抗癌剤で前処理した中皮細胞に対する癌細胞株の接着率を調べた。結果として1)3例の早期胃癌患者大網より得られた腹膜中皮細胞の抗癌剤感受性IC90 (μg/ml)はADM (.0048),CDDP (.453),5-FU (.23),MMC (.026),MTX (.011),VCR (.00073)であった。癌細胞の感受性と比較したPCTL (%)はそれぞれ(2.67), (12.67), (21.67), (19.0), (25.0), (10.67)であり、いずれも癌細胞の平均より感受性が高かった。また、1例はその後に腹膜再発を来した為、腹膜と腹水癌で感受性IC90を比較した。その結果CDDP,5-FU,MTXはほぼ同等でMMC,ADR,VCRでは腹膜の方が癌細胞より感受性が高かった。2)ヒト大網より分離された中皮細胞は、培養環境において単層敷石状で2ケ月間安定であったが、抗癌剤の添加により単層敷石状の形態は損なわれた。3) OK432は中皮細胞の形態には影響を与えなかった。4)低濃度でも抗癌剤で前処理された中皮細胞では癌細胞株の接着が有意に増加した。今回の実験結果より腹膜中皮細胞の抗癌剤感受性は各種癌細胞と同等かそれ以上であった。しかも、低濃度でも抗癌剤を作用させると腹膜中皮細胞は癌細胞の接着率が増加した。従って抗癌剤の予防的腹腔内投与は癌以上に腹膜中皮にダメ-ジを与え、再発を誘発する可能性が示唆された。濃度やタイミングなど投与法の詳細な検討が必要と考えられた。
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