敗血症時にみられる肝障害の発症機序について、一酸化窒素(NO)の生成と肝類洞腔の変化に着目し実験的に検討した。 盲腸結紮穿刺により作成した腹膜炎ラットでは、血清GPTおよびエンドトキシン(Et)が腹膜炎発症後6時間から上昇を始め、12時間後では有意となり、このモデルがEt血症を伴った肝障害を発症していることが明らかとなった。point counting法にて算出した肝類洞腔容積比は、6時間後に中心静脈域が、12時間後では門脈域が急激な増加を示した。抗iNOS(誘導型NO合成酵素)抗体と抗eNOS(内皮型NO合成酵素)抗体を用いて肝、肺の免疫染色を行うと、eNOSの発現は認められなかったものの、iNOSはKupffer細胞と肺胞マクロファージ(MΦ)に強く発現していた。 一方、Etの腹腔内投与によるEt血症ラットでも肝類洞腔は同様に拡張しており、Et投与後6時間からKupffer細胞、単球:MΦにiNOSの発現を認め、特に肉芽を形成している部位にiNOS陽性細胞が多数認められた。さらに免疫電顕にて詳細に観察すると、iNOSはKupffer細胞、単球系細胞の胞体内にびまん性に発現していることが明らかとなった。これに対しeNOSは、類洞内皮細胞の主として細胞膜に強く発現していた。 以上より、肝類洞腔の容積変化と肝障害との関連性が示されたが、この類洞腔の拡張は、敗血症による全身の循環障害に対して、肝血流量を維持する合目的的変化であると考えられる。類洞構成細胞におけるNOSの発現とその局在の意味は不明であるが、NOが肝微小循環の変化する場において直接産生されていることは、敗血症時の肝障害発症機序を検討する上で極めて興味深い所見と考えている。今後は、NOによる肝細胞膜脂質過酸化やKupffer細胞由来の各種サイトカインに注目し、さらなる検討を行う予定である。
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