研究概要 |
これまで我々は、多剤耐性に最も関与している多剤耐性遺伝子MDR1の発現誘導に関し研究を続けており、種々の抗癌剤や紫外線等によってこの遺伝子の発現誘導がかかるエレメント(inverted CCAAT box)をプロモーター上に決定している。そして、これらのストレスによりこのエレメントに、ある転写因子が結合しMDR1遺伝子の発現を誘導している事実を見出していた。今年度は、サウスウエスタン法を用いてλgt 11 cDNAライブラリーよりスクリーニングを行い、この転写因子(MDR-NF1と命名)のcDNAを分離・同定した。そこでクローニング出来たMDR-NF1のDNA結合領域であるcDNAの塩基配列を決定すると、ヒトMHCクラスII遺伝子プロモーター上のY-boxに結合する転写因子YB-1と同一である事が示唆された(論文作成中)。 また、この転写因子がリン酸化に関与していることこともすでに見出していた為、今回は、MDR1プロモーターの発現誘導におけるリン酸化阻害剤(H-7)の関与を調べてみた。その結果、H-7はMDR1プロモーターの発現誘導において、高濃度では紫外線や制癌剤によるMDR1promoterの発現誘導を、恐らく転写因子のリン酸化を阻害することによって抑制していることが推察され、逆に、低濃度ではMDR-NF1とinverted CCAAT boxとの結合を増すことによりMDR1promoterの発現を誘導するという、濃度特異的な2つの作用を持つことが判明した(Cellular Pharmacology,2:153-157,1995)。これにより、治療を含めた薬剤などによるこの耐性遺伝子の調節には、その使用法に詳細な検討を必要とすることが示唆された。今後この転写因子(MDR-NF1)の抗体の作製、臨床サンプルへの応用へと進める予定である。
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