研究目的:癌が浸潤、転移する際、主病巣周囲の間質結合組織や脈管周囲の基底膜の破壊が重要なステップの一つとして知られている.この点に注目し、分子生物学的手法を用いて、Matrix metalloproteinase(MMP)の産生調節機序を明らかにしながら、癌の浸潤、転移を抑制する手がかりを得ることを目的とする. 研究方法:1.in situ hybridization(ISH)によるMMP-1 mRNAの局在の検討;癌先進部組織を4%paraformaldehydeで固定後、ISHを行い、同時に連続切片で特殊染色を行って、MMP-1 mRNA発現細胞の同定を試みた.2.免疫組織染色法によるMMP-1蛋白発現に関する検討;癌先進部組織とヌードマウス可移植性ヒト胃癌細胞株を用いて蛋白レベルでMMP-1蛋白発現様式を検討した.3.胃癌の臨床病理学的特徴とMMP-1発現の関係を比較検討した(20例).4.ELISA法を用いたin vitroでの検討. 研究結果:1.MMP-1 mRNA、は癌細胞そのものに発現を認めず、間質の細胞に局在が認められた.また、連続切片をもちいた特殊染色との比較検討で、MMP-1 mRNA発現細胞は好酸球であることが示唆された.2.MMP-1蛋白発現は、癌細胞、間質細胞(線維芽細胞、顆粒球)共に認められた.ヌードマウスの皮下に移植したヒト胃癌細胞株においても、MMP-1蛋白発現は、癌細胞、間質細胞共に認められ、株の種類より発現様式が異なっていた.3.胃癌の臨床病理学的特徴とMMP-1発現の関係を比較検討により、浸潤好酸球とMMP-1発現との間には正の相関関係が認められ(p<0.01)、スキルス胃癌では非スキルス胃癌に比べてMMP-1発現が低い傾向にあった(p<0.05).4.ヒト胃癌由来線維芽細胞とヒト胃癌細胞株をin vitroで検討した結果、胃癌細胞株の上清により線維芽細胞におけるMMP-1発現が高くなる傾向にあり(ELISA法)、腫瘍細胞と宿主細胞との刺激伝達が示唆された.
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