研究概要 |
実験計画では,AH109Aラット腹水肝癌細胞と吉田肉腫を用いる予定であったが,これら細胞間にはin vitroにおいて同時に培養した場合に,各々の細胞間に細胞増殖促進作用あるいは抑制作用は認められず,また,in vivoにおいて同時に移植しても時期をずらして移植を試みても,腫瘍の増殖に単独で移植した群との間に明かな差異を認めず,腫瘍を移植した全ての群は腫瘍非移植群と比較して腓腹筋のグルタミン濃度,血中グルタミン濃度,グルタミンシンテシス活性は低下しており,各群間の腫瘍組織のグルタミン濃度とグルタミナーゼ活性を比較する明かな有意差はなかった。これらの結果は,腫瘍移植によるNitrogen trap theoryを説明するに過ぎず,本実験の目的とする腫瘍組織間の相互作用を検討するに値しなかった。 そこで他の種類の癌細胞を用いてin vitroにおいて腫瘍間の相互作用を検討したところ以下のごとく興味深い結果を得た。すなわち,AH109Aラット腹水肝癌細胞とヒト食道癌細胞株TE-9を同時に培養した際にはTE-9の増殖が抑制され,また,吉田肉腫とヒト食道癌細胞株TE-9,KE-3,YES-2を各々同時に培養した場合にはYES-2並びにTE-9は増殖が抑制され,KE-3は増殖が促進された。これらの結果に基づき,各々の組み合わせでin vivoにおける癌細胞組織間の相互作用を検討すべく,nude miceを用いて二種類の細胞を移植して観察を行ったが,in vitroから期待した結果は得られず,単独移植群と二種類移植群に現在のところ明かな有意差は認められていない。今回の検討では,グルタミン関連酵素群ならびにグルタミン濃度についての検討であったために差異が明かにならなかった可能性もあり,今後は他の増殖因子等に研究を拡げて行き,更なる検討が必要と考えている。
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