研究概要 |
(1)研究成果の概要 成熟ラット単離心筋細胞からのカルシウム流出に及ぼす外因性ATPの効果 【目的】心筋の拍動、収縮に細胞内カルシウムイオンは重要な役割を果たしている。心筋細胞内へのカルシウム流入機構に関しては多くの報告があるが、心筋細胞外へのカルシウム流出については細胞膜のCa2+pump(Ca2+-ATPase),Na+/Ca2+交換機構などが知られているのみで、その詳細なメカニズムは未だ明らかになっていない。今回、我々はそのカルシウム流出機能に焦点を当て、成熟ラット単離心筋細胞を用いて、外因的に投与したATP(アデノシン-3燐酸)の細胞外へのカルシウム流出に及ぼす効果について検討した。【方法】ランゲンドルフ灌流で酵素処理して単離した成熟ラット心筋細胞を用いた。45CaCl2を細胞内に取り込ませた後,細胞を灌流用のカラムにかけ細胞外の45Ca2+を洗い流し定常状態となったところでATPを添加し、経時的に細胞外へのカルシウム流出を測定した。【結果】ATPは10-5M〜10-3Mの濃度で,濃度依存的に心筋細胞内からのカルシウム流出を促進した。同様に、ATPアナログであるα,β-methylene ATP,ATP-γsもカルシウム流出を促進したが、AMP、adenosineにはそのような作用は認められなかった。ATPのカルシウム流出作用はP1 purinoceptor拮抗薬であるtheophilineで阻害されず,P2 purinoceptor拮抗薬のsuramineで阻害された。また、ATPによるカルシウム流出は細胞外液のNa+に依存していたが、外液Ca2+依存性は認められなかった。細胞内への22Na+の取り込みはATP添加で促進された。 【総括】以上の結果より、ATPによる成熟ラット単離心筋細胞からのカルシウム流出のメカニズムは、細胞外液Na+依存性のP2 purinoceptorに共役したNa+/Ca2+交換機能を介したものと考えられた。このような心筋細胞外へのカルシウム流出機構の解明は,虚血・再灌流障害におけるカルシウム過負荷の軽減につながり、ひいては開心術での心筋保護の改善に新たな知見を加えるものと思われる。 (2)今後の研究の展開 さらに、未熟心筋、チアノ-ゼ心筋につき外因性ATPの効果を検討する。
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