研究概要 |
非観血的に僧帽弁の狭窄病変が交連切開できればその臨床的意義は大きい。そこで,泌尿器科領域で最近多用されている体外衝撃波砕石術(ESWL)による交連切開の可能性につき検討した。 1.まず,開心術で僧帽弁置換術時に摘出した石灰化病的僧帽弁を用いて以下の実験を行った。種々の程度の石灰化を呈する摘出僧帽弁を水槽内に固定し,衝撃波源としてピエゾ素子を用いた衝撃波装置を用いて,駆動電圧,照射rateを変化させながら摘出僧帽弁に衝撃波を照射し,僧帽弁への影響を調べた。 2. 1.の結果,一部の高度な石灰化を示す病的狭窄で石灰化の一部にキレツが認められたが,他の多くの狭窄弁には肉眼的に有意な変化はみられなかった。またキレツが認められた狭窄弁でもキレツの方向は交連部とは一致せず,多彩であった。 以上から,先ず初期の実験段階において,ESWLによる石灰化狭窄弁の交連切開には大きな問題のあることが明らかにされた。 最近の研究では,音響インピーダンスの異なる臓器表面での衝撃波反射の影響で,その組織に損傷の生じることが確かめられている。その影響は当然心臓にも認められ,最近心筋梗塞の危険のある場合,あるいは心筋梗塞発生後短期間の場合にはESWLは禁忌とされつつある。更に,近年衝撃波が肺に昭射されると肺出血を生じる可能性も指摘されている。従って,実際の臨床で石灰化狭窄僧帽弁に衝撃波を集束させるには胸骨左様からのapproach以外にはないことになる。しかし,この方法では衝撃波の照射が丁度僧帽弁と平行になる為,その効果は極めて小さいと予想される。以上から,ESWLを用いた石灰化狭窄僧帽弁の交連切開には臨床的に大きな限界のあることが明らかにされた。
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