研究概要 |
ラット中大脳動脈(MCA)閉塞におけるimmediate early gene(c-fos)と神経栄養因子の発現。MCA閉塞後1、4、8、24時間の時点でc-fos,brain derived neurotrophic factor(BDNF),nerve growth facter(NGF),neurtrophin(NT)-3およびそれぞれの受容体であるtrk B, trk A, trh CのmRNAの発現について検討した。c-fosは虚血後4時間をピークに虚血中心部を除く皮質全体に誘導され、さらに海馬、視床、黒質にも誘導された。BDNFとtrkBも虚血後4時間をピークに虚血部を除く皮質全体および両側海馬に誘導されたが、視床と黒質には誘導されなかった。NGFも虚血中心部を除く皮質全体に誘導されたが、虚血時間に依存して誘導は増強した。海馬では両側のdentate fyrusにのみ誘導された。trkAには変動を認めなかった。NT-3とtrkCは虚血後誘導は認められず、虚血後4〜8時間にかけて一過性に信号強度の減少が生じた。両者とも皮質においては変動しなかった。さらに、BDNFとtrkBについて30分と90分のMCA閉塞後血流再開1、4、8、24時間においてin situ hybridizationを施行した(30分虚血は皮質に梗塞巣を形成しないが90分虚血は梗塞巣を形成する)。30分虚血群においては血流再開後4時間に一過性に虚血部にのみmRNAの誘導を認めたが、虚血領域外には誘導は認められなかった。90分虚血群においては上記の非血流再開群と同様の誘導パターンを示したが、海馬においては両側性に誘導された。 c-fosとBDNFの誘導に対するNMDAと細胞内Caの増加の関与。c-fosとBDNFの虚血後の誘導に対するNMDA阻害剤のMK-801(4mg/kg)と細胞内Caの抑制効果を有するpotassium openerのcromakalim(10ng, 脳質内投与)の効果について検討した。MK-801はc-fosの皮質、海馬、視床における誘導を抑制したが、黒質における誘導は抑制しなかった。一方、BDNFの誘導は皮質、海馬ともに抑制された。cromakalimはc-fosとBDNFの誘導を全域で抑制した。 MCA閉塞によりtranssynapticに皮質、海馬、視床、黒質に神経興奮を生ずるが、遅発性神経障害を呈する部位には神経栄養因子、特にBDNFは発現しないことが明らかとなった。また、遅発性神経障害を呈する視床はNMDAを介するCaの細胞内流入により神経興奮に陥っているが、黒質は他の機序により細胞内にCaが流入し神経興奮を生じていることが示唆された。
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