今回の補助金で作成した手術の状況と検査所見の変化を一つの画面に合成しリアルタイムで記録出来る新しいモニタリング装置を用いて当該年度中に総計26例の聴神経腫瘍腫瘍手術時に顔面神経モニタリングを施行し検討した。誘発筋電図とフリーラン筋電図記録を用いた2種類のモニタリング法について有用性を検討したが、誘発筋電図モニタリングでは、手術直後の顔面神経機能は手術中の誘発筋電図反応の振幅の減衰度と極めて良く相関することが判った。手術終了時に開始時の3分の2以上の振幅の誘発筋電図反応が得られた症例では顔面神経機能は手術直後から全例で「良好」(House-Brackmann scale I&II)であった。逆に3分の1を下回る症例では、手術直後は全例「やや障害」(III&IV)以下の成績であった。3分の1から2の間に属する群でも、直後はやはり「やや障害」以下のものが大部分であったが、前者が少なくとも最初の3カ月の間はあまり明瞭な回腹を示さなかったのと異なり、後者では、ほぼ半数で急速な回復を来し「良好」群となった。このことは、顔面神経の障害程度、予後はモニタリングの情報から手術中にある程度推定出来、この情報を元に手術方針を決定できることを示す。フリーラン筋電図モニタリングでは、顔面神経への侵襲が加わる局面で種々の異常筋電図反応が出現したが、異常所見の種類や出現量と顔面神経機能予後には、直接の相互関係は認められなかった。しかし、術者が顔面神経の存在を認識しないまま手術操作を進めて神経に思わぬ障害を加えてしまう危険をある程度回避できる可能性は示された。今後、本成果を元に神経障害をより正確かつ迅速に検知できるモニタリング法を開発する予定である。
|