頭蓋低部で内頚動脈が海綿静脈洞を貫き頭蓋内に入る際の、硬膜と血管の関係の理解はこの部分に発生した脳動脈瘤の治療に有用であるが、この部分を組織学的に検討した研究はなされていない。特に内頚動脈の内側面には、内窩動脈頚(Carotid Cave)と呼ばれる部位が存在すると言われているが、この部分を解剖学的・組織学的に研究された報告はない。そこで、今回の研究では、三次元的に屈曲蛇行して走行する内頚動脈と頭蓋底硬膜の関係を、剖検標本から得た頭蓋底(脳槽部内頚動脈を含む海綿静脈洞部分)13例26側をもとに研究した。まず、生標本にて肉眼的観察を行い、次にホルマリン固定、脱灰処理を施した後、内頚動脈近似の割面標本を作製し、内頚動脈、内頚動脈窩、及び硬膜の解剖学的関係を組織学的に検討した。内頚動脈の内側後方に内頚動脈窩が存在する症例があり、その形態により次の4型に分類できた。第1型:はっきりとしたポケット状の陥凹を認めるもの(3側)、第2型:陥凹を認めるが篩状またはメッシュ状の結合織に被われているもの(1側)、第3型:わずかにスリット状のくぼみを認めるもの(9側)、第4型:硬膜と内頚動脈の間に陥凹を認めずタイトなもの(13側)。以上、内頚動脈窩は、第、1、2、3型の13側(50%)に認められた。上下垂体動脈は5側に存在し、いずれも内頚動脈窩の存在した症例であった。内頚動脈窩が全く存在しない症例が約半数で、特に女性に存在しないことが多かった。内頚動脈内側の動脈瘤が女性優位に発生することを考えると、解剖学的な内頚動脈窩の存在は、この部位の動脈瘤の発生に直接関係している可能性が低いことが示唆された。
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