研究概要 |
線維芽細胞由来液性因子であるTGF-β1,bFGF,TNF-α添加によりRCT(+)肉腫の細胞外マトリックス分解酵素(105-kDa gelatinase)産生能が亢進することをGelatin zymographyの方法により確認した。またTGF-β1添加では、再構築基底膜浸潤能(control 平均32個/視野,TGF-β1添加 56個/視野,P<0.01)、遊走能(control 平均42個/視野,TGF-β1添加 60個/視野,P<0.01)も著明に増加した。RCT(-)肉腫では、bFGF,TNF-α添加により細胞外マトリックス分解酵素産生能は亢進した。しかしTGF-β1添加ではRCT(-)肉腫の細胞外マトリックス分解酵素産生能には影響を及ぼさず、遊走能(control 平均45個視野,TGF-β1添加 53個/視野,P<0.01)を増加させた。以上よりTGF-β1はRCT肉腫の細胞外マトリックス分解酵素産生能、再構築基底膜浸潤能、遊走能のいずれも増加させ、転移促進因子であることが確認された。次に直径8μmの穴を有する多孔性フィルターをセットしたchdmber上槽に各株細胞、下槽にC3Hマウス皮膚由来線維芽細胞(以下MSF)を混合培養し、MSFの転移能に及ぼす影響について検討した。MSFとの混合培養によりRCT(+)肉腫の細胞外マトリックス分解酵素産生能、再構築基底膜浸潤能(平均39個/視野)、遊走能(平均67個/視野)は、RCT(-)肉腫の再構築基底膜浸潤能(平均11個/視野)、遊走能(平均52個/視野)と比較し亢進することが明らかとなった。この培養系においてTGF-β1抗体を投与するとRCT(+)肉腫の細胞外マトリックス分解酵素産生能、再構築基底膜浸潤能(control 平均39個/視野,TGF-β1抗体添加 21個/視野,P<0.01)、遊走能(control 平均67個/視野,TGF-β1抗体添加 25個/視野,P<0.01)とRCT(-)肉腫の遊走能(control 平均52個/視野,TGF-β1抗体添加22個/視野,P<0.01)を有意に抑制した。以上より肉腫の転移能はその腫瘍自体の持つ転移能力だけではなく細胞周囲環境によって影響を受けるため、TGF-β1抗体の投与により転移予防の手段となりうることが示唆された。
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