研究概要 |
変形性関節症に対する薬物治療には,病変部への選択的有効性,効果持続時間に問題がある.関節疾患において,軟骨保護作用のある蛋白遺伝子を軟骨細胞に導入できれば,局所に長期間発現させることができ有効な治療法となりうる.本研究では,軟骨細胞にアデノウイルスベクターを用いて,LacZ遺伝子,TGF-β1遺伝子,およびHSP70遺伝子を導入し,その発現と効果を検討した. LacZ遺伝子の導入効率は,ヒト軟骨様軟骨細胞(HCS-2/8)で99%,ヒト軟骨初代培養細胞で82%であり両者ともに高率な発現を認めた.また器官培養したヒト関節軟骨組織に対してLacZ遺伝子の導入を行い,組織中の軟骨細胞で発現を認めた.HCS-2/8に導入したTGF-β1,HSP70遺伝子に対応するmRNAおよび蛋白の発現は亢進していた.さらにこれらの発現は,少なくとも3週間持続した.これらの結果は,軟骨細胞に対する遺伝子導入法としてアデノウイルスベクター法が有効であることを示している. TGF-β1遺伝子導入HCS-2/8において,主要な軟骨細胞外基質であるプロテオグリカンコア蛋白およびTypeIIコラーゲンmRNAの発現は増加し,軟骨基質分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ3mRNAの発現は減少していた.またHSP70遺伝子導入HCS-2/8において,プロテオグリカンコア蛋白mRNAの発現が増加していた.これらの結果は,軟骨細胞へのTGF-β1およびHSP70遺伝子の導入および発現が,軟骨基質代謝に対して有効に働いていることを示している.
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