研究概要 |
CGRPは妊娠,腎不全などの慢性の水分過剰においては高値を示すことが報告されている.特にCGRPは腎不全患者においては,末梢血管を拡張することにより肺の水分をシフトさせることにより水分過剰の状態から生体を防御していると考えられている.人工心肺は生体にとっては急性の水分過剰状態とも考えられる.人工心肺がCGRPとNOに及ぼす役割を,腎機能が正常な冠動脈バイパス術患者20例を対象に検討した.麻酔前投薬は搬出90分前にジアゼパム0.1mg/kg内服,45分前にスコポラミン0.008mg/kg,モルヒネ0.1mg/kg筋注した.麻酔はフェンタネスト20mcg/kg,ミダゾラム0.1mg/kg用い,人工心肺までにフェンタネスト50-70mcg/kgを使用した.採血は人工心肺前,人工心肺開始直後,大動脈遮断30分,大動脈遮断60分,人工心肺離脱前,人工心肺離脱30分,人工心肺離脱60分に行った.CGRPは人工心肺開始直後,大動脈遮断前に人工心肺前の10倍に上昇したが,大動脈遮断30分には低下し,人工心肺離脱後は人工心肺前と差を認めなかった.人工心肺離脱後,誤って輸液を過剰に負荷し肺水腫をていした患者においてもCGRPはコントロールと差を認めなかった.CGRPの値と水分バランスの値には相関を認めなかった.NOに関しては血液中のNO2-を測定したが,有意な変化を認めなかった. 今回の結果は腎機能が正常な患者における水分過剰状態においては,尿量が維持されている限りCGRPは末梢を拡張して肺循環を保護するような作用は有しないものと思われた.またCGRPの人工心肺開始直後における上昇は世界で初めての知見であるが,上昇したメカニズムについては今後の検討が必要と思われた.
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