実験1:ホルマリンの反復刺激についての実験において、右足底への反復投与では、脊髄広角のFos陽性細胞数、発現部位ともにホルマリン1回投与群と比較して変化はなかった。これは、ホルマリンによる組織破壊のために、2回目の刺激が十分な疼痛刺激とならなかったためと思われる。したがって、2回目のホルマリン刺激の部位を反対足へと変えてみた。最初に右足底へ、2時間後に左足底にホルマリンを投与した。この実験では、脊髄の左のFos発現が、抑制され、その効果は、I、II層に強かった。先行する痛み刺激があると、2回目の刺激によるFos発現は抑制されることがわかった。Fos Bの発現には変化はなかった。 実験2:オピオイドを前処置で投与しておいた場合は、Fosの発現が、左右ともに抑制されるため、Fos発現の変化には有意差を見いだせなかった。ナロキソンで前処置を行い、モルヒネの効果は拮抗しておくと、再び、このFosの抑制効果は出現した。Fos Bの発現はモルヒネの投与によっても変化はなかった。 ホルマリンによるFos発現は、オピオイドによって抑制され、その効果はI、II層よりもV、VI層に強かった。しかし先行するホルマリン刺激による抑制効果は、I、II層にみられる。先行する痛み刺激があると、Fosの発現に変化が現れる現象は、どのような機序であるかは不明であるが、過去に報告された細胞の発射活動にみられたdiffuse noxious inhibitory controlと関連があるかもしれない。
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