本研究では、脳蘇生法の基礎データーとして、脳虚血や低酸素時における脳内酸素化状態の変化を脳血管と脳細胞の両面から解明した。〈研究方法〉ラット15匹を3群に分け(1)低酸素後酸素再吸入モデル(2)脳虚血後再灌流モデル(3)脳塞栓症モデルを作成し、近赤外分光装置を用いて脳血管内ヘモグロビンの酸素化状態、脳細胞内チトクロムオキシダーゼの酸化-還元変化を経時的に測定した。〈結果〉(1)低酸素後酸素再吸入モデル---窒素吸入および酸素再吸入により、脳血管内ヘモグロビンの酸素化-脱酸素化状態が変化し、やや遅れて脳細胞内チトクロムオキシダーゼの酸化-還元変化が認められた。酸素再吸入時には、脳血管拡張により脳内総ヘモグロビン濃度が上昇したが、チトクロムオキシダーゼの過剰酸化は認められなかった。(2)脳虚血後再灌流モデル---両側頸動脈を遮断すると、脳血管内と脳細胞内がほぼ同時に低酸素状態に陥ったが、再灌流時には脳血管内の酸素化が先に出現し、やや遅れて細胞内チトクロムオキシダーゼの酸化変化が認められた。再灌流時には脳内総ヘモグロビン濃度が上昇し脳血管拡張が示唆された。(3)脳塞栓症モデル---頸動脈より20umの微小粒子を持続的に注入すると、脳細胞内チトクロムオキシダーゼは還元されたが、血管内ヘモグロビンの酸素化状態は変化せず、このことから脳内シャント血流の発生が示唆された。一方、20umの大粒子注入では、脳虚血実験とほぼ同様な結果がみられた。〈考察〉今回の研究結果では、(1)脳障害を引き起こす原因(低酸素、脳虚血、脳塞栓症)により、脳血管内の酸素化状態と脳細胞内の酸素化状態はそれぞれ異なった変化を示した。(2)脳塞栓実験では大粒子と小粒子で結果が異なり、小粒子塞栓では脳内シャントの発生が示唆された。以上の結果は、今後の脳障害発生メカニズムの解明や脳蘇生法を研究していく過程で、重要な基礎データーになるものと思われた。
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