セボフルラン麻酔が脳循環の自動調節能に及ぼす影響を、アカゲザルで検討した。脳血流量の測定にはPETスキャンを用い、0.5%セボフルラン麻酔時を対照とし、2.0%の深麻酔によって血圧を約1/2に低下させた時点、およびアンギオテンシンIIにより血圧を対照のレベルにまで戻した時点の三条件で測定した。その際、動脈血炭酸ガス分圧(PaCO_2)のレベルを三段階に調節して、その影響についても検討を行った。 1.脳血流量の炭酸ガス反応性 0.5%および2.0%セボフルラン麻酔の両者で血圧を一定に保った状態で、PaCO_2 1mmHgあたりの脳血流量の増加率を比較した。低炭酸ガス血症では、全脳ならびに各領域で炭酸ガス反応性に有意差はみられなかった。一方、高炭酸ガス血症では、全脳およびどの領域でも2.0%麻酔の方が脳血流量の炭酸ガス応答性は亢進した。 2.脳血流量の灌流圧依存性 2.0%のセボフルラン麻酔中、低下した血圧を対照値まで回復させた場合、全脳の平均血流量はPaCO_2レベルによらず一定であった。皮質・白質領域の局所脳血流量にも血圧変動に伴う有意な変化はみられなかった。唯一小脳領域におけるPaCO_2 50mmHgの時のみ局所脳血流量に灌流圧依存性の変化がみとめられた。 3.脳血流量の濃度依存性 セボフルラン濃度を0.5%から2.0%に上昇させても平均脳血流量は各PaCO_2レベルにおいて一定であった。皮質・白質領域の局所脳血流量も有意な変化はみられなかった。唯一小脳領域におけるPaCO_2 50mmHgの時のみ局所脳血流量に濃度依存性の変化がみとめられた。 以上の結果から、2.0%までのセボフルラン麻酔では炭酸ガス分圧レベルによらず、脳循環の自動調節能は維持されることが確認された。ただし、唯一高炭酸ガス血症における小脳領域では自動調節能は抑制され、脳血流量が圧依存性となる可能性が示された。
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