研究概要 |
蓄尿ならびに排尿の脊髄内神経機構で作用している神経伝達物質としてグルタミン酸に着目し,その役割を検討した。 実験は麻酔薬の影響を排除して生理的状態に近い覚醒拘束ラットを使用し,仙髄髄腔内にグルタミン酸レセプター拮抗薬を直接投与して,その排尿反射に及ぼす効果を解析した.また,下腹神経・交感神経幹を切断したモデルならびに胸髄における脊髄損傷モデルも作製し,同様の実験を行い薬剤の作用部位も検討した.薬剤はNMDA型レセプター拮抗薬であるMK801とAMPA型レセプター拮抗薬であるLY293558を用いた. 神経無傷モデルではMK801ならびにLY293558の仙髄髄腔内投与はともに,膀胱収縮圧,排尿反射頻度,外尿道括約筋活動を容量依存性に抑制した.下腹神経・交感神経幹切断モデルでもMK801ならびにLY293558の仙髄髄腔投与はともに,膀胱収縮圧,排尿反射頻度,外尿道括約筋活動を容量依存性に抑制した.神経無傷モデルと下腹神経・交感神経幹切断モデルとの間では,これら薬剤の抑制効果に有意差はなかった.脊髄損傷モデルではMK801ならびにLY293558の仙髄髄腔内投与はともに,膀胱収縮圧,排尿反射頻度には影響を与えず,外尿道括約筋活動を容量依存性に抑制した. したがって,脊髄内グルタミン酸伝達系はNMDAならびにAMPA型レセプターを介して,排尿反射における膀胱収縮と外尿道括約筋活動に促進的に作用していると考えられる.その作動部位は,膀胱収縮に関しては脳幹の排尿中枢から仙髄骨盤神経核に至る脊髄下行路と考えられる.
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