(目的)Estramustine結合蛋白(EMBP)は前立腺癌(PC)治療薬の一つであるestramustineに特異的に結合する蛋白である。今回我々はPC組織におけるEMBP発現をandrogen receptor (AR)、Ki67抗原およびbcl-2遺伝子産物と免疫組織化学的に比較し、また臨床病理学所見と比較することでEMBPのPCにおける臨床的意義を検討した。(対象および方法)未治療PC症例81例、再燃PC症例25例を対象とした。ホルマリン固定パラフィン包埋標本より5μm連続切片を作製し、抗ラットEMBP抗体、抗ヒトAR抗体(Novocastra)、MIBI抗体(Immunotech)および抗bcl2抗体(Dako)を用いて免疫組織染色を行った。なお、AR免疫染色に際してはCSA (Catalyzed signal amplification)を施した。各免疫染色陽性細胞率(PR)はCAS 200 Image Analyzer (Cell Analysis System)を用いて評価した。(結果)未治療PC組織におけるEMBP-PR、MIBl-PR、bcl2-PRはPC組織の脱分化に伴い有意に増加したが、AR-PRは逆に減少した。また、EMBP-PRはMIBl-PRおよびbcl2-PRと有意な正の相関を示したが、AR-PRとの間には負の相関を認めた。一方、再燃PC組織におけるEMBP-PR、MIBl-PRおよびbcl2-PRは未治療PC組織と比較し有意に増加し、AR-PRは逆に減少した。各々中央値をもって2群に分類するとEMBP-PR、MIBl-PR、bcl2-PRの高値群における非再発期間は低値群に比較し有意に減少していたが、AR-PRに関しては逆の傾向を認めるものの2群間に有意差を認めなかった。さらにEMBP-PR/AR-PR>1.5の症例における非再発率は1.5以下の症例に比較し有意に低下していた。(結語)PCにおけるEMBPは癌組織の脱分化に伴いアンドロゲン依存性を消失し、EMBPと増殖能ならびにアポトーシスとの関連性が示唆され、EMBP/AR比はPCの生物学的悪性度を知る上で有用な指標と考えられた。
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