1.平成7年度は、三次元構造を再構成することができたブタ膀胱上皮の代わりに、標本として提出されたヒト膀胱を用いて、三次元培養を試みた。結果は、ヒト膀胱上皮もコラーゲン・ゲル上で、層状構造を示した。しかし、利用した膀胱が少量であったため、移行上皮細胞と線維芽細胞の採取数が充分でなかった。特に、線維芽細胞の採取数が少なく、コラーゲン・ゲルの中に包埋する細胞数が少なかった。完全な膀胱粘膜の三次元的再構築はできなかったのは、移行上皮細胞と線維芽細胞の相互作用が、細胞数少量のために充分でなかった可能性があった。また、採取されたヒト膀胱は、高年齢のため、細胞そのものの活動性が低かった可能性があった。 2.材料として、確立された膀胱上皮癌細胞を利用して、コラーゲン三次元培養を行った。結果は利用した癌細胞の特徴は浸潤性癌であったが、培養系ではいわゆる膀胱粘膜下組織にみたてたコラーゲン・ゲルの中には浸潤しなかった。層状構造は、数層にもなり増殖能が非常に強いことは示された。コラーゲン・ゲルの中に包埋した線維芽細胞がブタで、利用した癌細胞がヒト由来であったことも、浸潤しなかった理由に挙げられた。3.培養系で三次元構造を再現したブタ膀胱粘膜に、針で損傷を与え、その修復機転を観察した。まず、位相差顕微鏡で培養した移行上皮細胞が重層化したことを確認した後に、針で刺入したり、引っかき傷を与えた。その後、培養をさらに続けて、通常の病理組織学的標本を作製し、観察した。結果は損傷は、粘膜下組織を再現したコラーゲン・ゲルまで、充分に達しており、その上に移行上皮細胞が修復するように覆って増殖していた。さらに、損傷を与えた周辺部に、いわゆるBrun巣、cystitis cystica様の変化が認められた。 以上、得られた結果は、現在までの二次元的な細胞培養手技では、証明され得ず、新たな知見であった。
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