研究概要 |
〔目的〕N-3系多価不飽和脂肪酸のDHAには妊娠母体の血圧降下作用が期待されている。そこで、我々はPIH、妊娠高血圧に対する治療、あるいは発症予防効果につき検討するため、妊娠SHRラットを用いてDHAの多い食餌を投与し、血圧が低下するか否かを観察した。〔方法〕成熟雌SHRラットにDHA欠乏食を2週間与え、その後交配した。妊娠成立後、DHA豊富食(PUFA中28%DHA含有)を与えたD(+)群と、DHA欠乏食を与え続けたD(-)群を作成した。tail cuff法により収縮期血圧を経時的に測定した。妊娠21日に動脈血清中の脂肪酸組成を、ガスクロマトグラフィーにて分析した。尚、飲水として1.5%食塩水を用いたNa(+)群(n=15),水道水飲水のNa(-)群(n=15)を作成検討した。〔成績〕1)食塩水を負荷したNa(+)群のD(-)ラット(妊娠前の平均血圧;173mmHg)では妊娠5日までに血圧は34mmHg上昇し(P<0.05),それ以後高血圧は持続した。一方、D(+)ラット(妊娠前193mmHg)も妊娠7日には21mmHg上昇したが(P<0.05),妊娠17日以降血圧は持続的に低下傾向を示した(P<0.05)。2)血清中の脂肪酸分析ではDHAとアラキドン酸(AA)の組成が大きく異なり(P<0.05)、D(+)ラットでは、DHAはAAより3-4倍高い組成であった。一方、D(-)ラットでは逆にAAがDHAの50-60倍と高い傾向が認められた。3)Na(-)群では妊娠後の血圧上昇はないが、DHAの降圧作用はNa(+)群同様に認められた(P<0.05)。〔結論〕妊娠SHRラットにおいてDHAの血圧低下効果が確認された。しかし効果発現はある一定のtime lagが必要で発症予防に有用と考えられた。この血圧調節機構の変化には、N-3,6系のバランス、特にAA/DHA比の変化が大きく関与している可能性が示唆された。
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