研究概要 |
胎児遺伝性疾患の出生前診断は主に羊水穿刺、絨毛採取などにより胎児細胞を採取し行われているが、これらの手技が流産の原因となることがある。今回、より安全な胎児遺伝子診断法として、妊婦末梢血中に極少量存在する胎児由来の有核赤血球に注目し、妊婦末梢血中より有核赤血球を回収し、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)などの遺伝性疾患の出生前診断に応用する方法の確立を試みた。 胎児細胞の分離は、妊婦8-20週の妊婦より末梢血7mlを採血、Percoll不連続密度勾配遠沈法で有核赤血球を含む分画を分離し、塗沫染色し、顕微鏡下で有核赤血球を同定し、その単一細胞をmicromanipulatorで選択的に分離、DNAを抽出しPrimer extension pre-amplification(PEP)法にて単一細胞に由来するDNA全体を増幅した。そして、そのPEP産物の一部で、ZFX/ZFY遺伝子による性別診断およびDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)のジストロフィン遺伝子exon4,8,12,45,48,50,51領域について遺伝子欠失の有無についての診断を可能にした(Neurology,1996;掲載予定)。さらに、胎児のRh式血液型診断についても同様の方法を応用し、診断可能にした(Obstetrics and Gynecology,1996;掲載予定)。 この方法は、妊婦末梢血より有核赤血球を回収し、胎児由来である事を性別診断することで証明した後、同時に多種の遺伝子診断を行う事を可能にする方法である。また、本法は妊婦の6週頃からと早期より診断可能なこと、検査自体が母体、胎児双方にとって無侵襲的であることなど利点を有しており、次世代の出生前診断法と考えられる。
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