小児滲出性中耳炎は、軽症のものは多くは自然治癒する疾患でありながら、中等症以上になると鼓膜に萎縮や癒着、穿孔、硝子化、石灰化といった多様な後遺症を残し、難治性のものでは癒着性中耳炎、鼓空硬化症といった遺残症ともいえる病態に移行する。それらの後遺症や遺残症は、中耳の細胞外マトリックスの破壊や変性が高度で不可逆性になったものともいえる。この病態を明らかにするために、滲出性中耳炎患者に換気チューブ留置術を施行時、鼓膜の生検と中耳貯留液を採取し、鼓膜の電顕病理像を得るとともに、中耳貯留液中のコラゲナーゼ活性、TIMP、TGF-β活性を測定した。 電顕像における鼓膜中間層の破壊の程度は、a:ほとんど破壊のないものb:内輪層に破壊がみられるものc:内輪層が消失し外縦層に破壊がみられるものd:内輪層も外縦層も消失したもの の4段階に分けることができた。また、その破壊の程度とは別に、粘膜下層から中間層にかけての無秩序な線維層の増大を伴うものがあった。 鼓膜中間層の破壊の程度と中耳貯留液中のコラゲナーゼ活性は正の相関があることがわかった。また、TIMP活性とは負の相関があることがわかった。またTGF-βの活性を測定した結果、線維層の増大とTGF-βは関連があると考えられた。臨床経過と対比させてみると、鼓膜換気チューブ留置後に鼓膜の硬化性変化が出現するものでは、貯留液中のTGF-βの活性が高くなっていたことがわかった。 今後は、さらに、これらの細胞外マトリックスに影響する生理活性物質がどのような細胞から産生されているのかとどのような炎症因子によって誘導されているのかを明らかにしたい。
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