研究概要 |
最近p53遺伝子により転写促進され、細胞周期のG1期からS期への移行を促すcyclin-dependent-kinaseを阻害する蛋白としてp21(WAF1/CIP1)が発見され、p53遺伝子の機能解明の糸口として注目されている。今回我々は、梨状陥凹型の下咽頭扁平上皮癌未治療新鮮齢57例を対象とし、p53遺伝子の機能をP53蛋白ならびにP21蛋白を免疫組織学的に観察することにより調べ,従来の臨床的および病理組織学的な事項と比較検討して,予後因子としての可能性とその意義を検討した。p53蛋白の免疫染色をおこなった57例中,p53陽性群は21例,p53陰性群は36例であった。5年生存率はp53陽性群で59%,p53陰性群では28%,とp53陽性群の予後は有意に良好であった(p=0.01)。p53の過剰発現の有無と,分化度,T分類,N分類,Stage分類との相関は認められなかったが,病理組織学的頸部リンパ節転移数と有意な相関が認められ(p<0.02)、p53陽性腫瘍は多発リンパ節転移を起こしにくいと考えられた。p53陽性群に対してp21(WAF1/CIP1)蛋白の免疫染色をおこなった21例中6例において腫瘍細胞の核に明らかな濃染が認められた。p53陽性例中p21(WAF1/CIP1)陽性の6例と,陰性の15例の5年生存率はそれぞれ100%,44%と,有意差は認められなかったが(p=0.068),p21(WAF1/CIP1)陽性群の予後が良好な傾向が認められた。下咽頭癌においてp21(WAF1/CIP1)蛋白の発現の有無はp53蛋白の発現と独立した予後因子となる可能性が示唆された。
|